


竹富島で星のや。またまた難しくも魅力的な土地との出会いとなった。軽井沢、京都と、星のやの計画においては常に「その場所」だけでしか体験できない滞在の提供を考えてきたし、もちろんここでも「その場所」を含む全体(竹富島)がより持続的に魅力を増していけるための星のやでありたい。ここは沖縄だけでなく全国的にも有数の伝統的集落や文化・芸能がリアルな生活の中に生きている島である。
島という小宇宙の中にどのように新しい宿泊施設を埋め込むのか、どうしたら島の風景に溶け込みつつも新しい体験を提供できるか、そういうところから場所の選定に始まる膨大な試行錯誤の繰り返しに突入していったのであった。選ばれた敷地はアイヤル浜にほど近く、浜とは防潮林で隔てられている。昭和の中頃まで一面の畑だったが、畑が放棄された後はギンネムという外来植物に覆われ、最初に私たちが眼にしたのは一面の藪であった。 中世にはこの辺りにも集落があり、人々の暮らしがあったらしい。その当時の集落はグスク(城)形式と呼ばれ、石壁に囲まれた空間が次々に奥へ連なる防御性の高い形態だった。現存する家々は、一戸ずつがグックという石積壁に囲まれており、島の中心に寄り集まって井然形式という井桁状の集落を構成している。これら二つのパターンの組み合わせを基本として、星のやの集落を構成した。こうした集落の有り様から、グックに囲まれた庭や住戸に至るまで、島本来の伝統が生きている。台風への備え、プライバシーと気候に合わせた暮らしの両立、島全体が石灰岩からなること。伝統的なかたちは調べるほどにここでの暮らしにとても合理的にできている。竹富島の伝統に則ることは、島の風景としても、リゾートとしての魅力を考えても、星のやにとって最も価値があるのだ。
6haを超える星のやの敷地は、全体で一つの村。自分だけの庭から細い路地、その傍らの小さな畑、大きく空に開いたプール、森の木陰や見晴台、敷地すべてがゆったりとした滞在の場所であり、そのまま島全部へ自然につながっていく。星のや 竹富島が、そういう風に島の魅力を存分に味わう起点になってほしいと願っている。

沖縄、八重山諸島の竹富島は文化の濃い島です。青い空、白い珊瑚の砂、美しい海、カラフルな熱帯魚、 真っ暗な夜と満点の星、それだけでは竹富島の魅力は語れないのです。グックとよばれる石垣で囲まれた赤い瓦屋根の木造家屋、白い砂の敷きつめられた道、信仰の場である御嶽(うたき)、1年を通して行われる数多くの祭礼、継承されつづけている歌と踊り、そして、そこで暮らす人に日常として育まれている信仰と生活、そのすべてが竹富島の文化であり、魅力です。
星のや 竹富島 のデザインにこの竹富島の文化への尊敬の思いをこめました。グックに囲まれ、1室1室が独立した客室と白砂の庭、魔除けの意味もあるヒンプン、シーサーがのった赤瓦の屋根、雨端柱(あまはじばしら)が建つ南側の縁側、心地のよい影を作りだしている大屋根下の空間、北側の風よけのためのフクギなどなど。島に流れるゆったりとした空気感をどのように表現できるのかを考えながら設計をしました。
客室には、風の間と名付けたくつろぎのための南の座敷とゆったりとした水回り、そして、壁に囲いこまれて守られている寝室があります。南側の風の間から庭を望む木製のガラス戸と、北側のフクギが見えるガラス戸をすべて開放すれば、客室の中を竹富の風が通り抜けていきます。
ゆっくりとした時間の流れのなかで、風を楽しみながら星のや 竹富島にご滞在いただきたいと願っています。
「重伝建」、重要伝統的建造物群保存地区の略称。市町村は伝統的な町並みの風景を保存するために、保存地区を選定し、その中でも国が特別に文化的価値が高いと認めると「重伝建」に選定される。全国でも91区、沖縄に2区、その一つが竹富島。 竹富島の居住エリアは全て「重伝建」に選定されている。 島民の意識の高さから、島全体の歴史的景観だけではなく生活文化も保存されているのが竹富島の特徴。
竹富島には約320人が島の伝統文化を守りながら暮らしている。その舞台となる祭りは年に20あまりあり、秋に10日間続く「種子取祭」は島最大のイベントとなる。全島民に参加が期待されており、各人に役割や準備の担当がある。毎年長い準備期間を経て実施される祭りは、島の伝統を守っていこうという強い意志の象徴だ。
私が竹富島を最初に訪れたのは2005年、そこから紆余曲折を経て「星のや 竹富島」をつくることになるまで、島民の皆さんと数多くの議論を行ってきた。このプロセスで私はとても大切なことに気づいた。主張がどんなに激しく対立しても、最後は仲間として一緒にやっていくということ。ここは昼間に喧嘩別れしても、夜には祭りの準備で一緒に話し、助け合わなければならない島なのだ。
「星のや 竹富島」は、そういう島で長い時間をかけて計画してきた。当然ながらその建物は保存地区のマニュアルを踏襲している。厳しい規制であるが、魅力の障害として捉えていない。むしろ竹富島の魅力そのものである。沖縄の文化を満喫する旅、離島の集落で住人になったかのような滞在、これこそが星のや 竹富島のコンセプトである。